広島高等裁判所岡山支部 昭和49年(ネ)38号 判決
控訴人
坂井綾子
右訴訟代理人
黒田充治
被控訴人
今井三郎
右訴訟代理人
宇山謙一
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
《前略》
(第三次請求について)
一、本件不動産が今井千代の所有するものであつたこと、今井千代が昭和一七年二月八日死亡し、同人の遺産相続が開始したことは、当事者間に争いがない。
二、〈証拠〉によれば、右遺産相続人は、今井千代の養子であつた坂井照一の子(代襲相続人)である控訴人、今井千代の養子今井斉、今井千代の非嫡出子訴外木下ミサヲの三名であり、その相続分は控訴人及び今井斉がいずれも各五分の二、木下ミサヲが五分の一であつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
三、ところで、本件不動産につき、請求原因3の(三)記載の所有権保存及び移転の各登記がなされていることは、当事者間に争いがない。
四、ところで、控訴人は、被控訴人に対する本件第三次請求は前記所有権(五分の二の持分権)に基づく回復請求である旨主張するが、真正相続人が表見相続人(相続分以上の相続分を主張する共同相続人もその権利なき相続分については表見相続人である。)及びその特定承継人に対して相続財産の回復を求める請求は、当事者の訴の名目の如何を問わず、いずれも相続回復請求権の行使にほかならないと解すべきである。そして、相続回復請求権は相続開始の時から二〇年を経過したときは時効により消滅するものであり、相続回復請求権の消滅時効は、表見相続人はもとよりその特定承継人も当然これを援用しうるものと解すべきところ、〈証拠〉によれば、控訴人が今井千代の死亡による相続開始の時である昭和一七年二月八日から二〇年間今井斉らに対して相続回復請求権を行使しなかつたことが明らかである。そうだとすれば、本件不動産に対する前記所有権移転及び保存登記によつて控訴人の相続分権が侵害されたとしても、控訴人の被控訴人らに対する右請求権は昭和三七年二月八日の経過により消滅したといわなければならず、したがつて、本件不動産における控訴人の前記持分権も消滅したものというべきである。
五、よつて、控訴人の本件第三次請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がなく、失当である。
《後略》
(渡辺忠之 山下進 篠森真之)